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地方の声はどこにあるのか

参院選が終わりました。新聞やテレビなどでは「3分の2」や「改憲」、「アベ政治」などのキーワードが並んでいますが、ひとたび私の地元、福島県いわき市に目を向けてみると、全国的なニュース報道とはまたひと味違った風景が見えてきます。

結果は民進党の増子輝彦さんの勝利でした。夜の8時から始まったテレビ番組の開票速報などでは、序盤は自民党の岩城光英さんが優位に立っていましたが、福島県内の票田である福島市、郡山市など中通り地区の票が出始める頃には増子さんがじわじわ逆転。終わってみれば3万票の差がつき、おおかたの予想通り増子さんが議席を獲得しました。

○増子輝彦(民主) 462,852
×岩城光英(自民) 432,982
×矢内筆勝(幸福)  20,653

福島県内の選挙結果を伝える新聞、テレビなどを見てみると「福島から安倍政権にNO」というな主旨の記事が散見されます。あるいは東北6県で5県が非自民だったことから、新聞は「復興政策への不満」という感じの記事が目立ちました。では実際にはどうだったのか地元目線で見てみよう、というのがこのエントリの主旨です。本当に福島県民は安倍政権に「NO」を突きつけたのか。

 

—結局は地盤問題

 

まずは市町村別の結果を見てみましょう。下のマップ(自作)が一目瞭然です。きれいに「会津と中通りは赤」、「浜通りは青」となっています。これは大変ショッキングな結果です。同じ福島県でありながら、ここまでハッキリと分断、色分けされてしまう状況。まさに福島の難しさと言っていいと思います。

 

fukushima

 

ではなぜこのような結果になったのか。1つは、シンプルに候補の出身地や地盤です。増子さんの地元は郡山。岩城さんの地元はいわき。それが如実に出たということ。もう1つは、やはり復興政策に対する危機感の表れの違い。岩城さんは現職の法務大臣でもありますが、甚大な被害を受けた浜通りのいわき出身の現職閣僚を落選させれば、当然復興のスピードも落ちかねない、そう危機感を持った有権者が岩城さんへ投票したものと見られます。

個別に、まずは地盤から見ていきます。

地方では、政策や公約云々ではなく「おらが地元の議員センセ」に投票する傾向が強いです。今回も、いわき市民は岩城候補に、郡山市近辺の住民は増子さんに、それぞれ投票した方が多いはずです。さらに、浜通りと中通りの「人口差」を考えれば、自ずと人口の多い中通りを基盤に持つ増子さんが有利という判断ができると思います。

福島県を一括りとしてみれば、結果はもちろん「福島はアベ政治にNO!」なのですが、実際には地域特有の投票行動や地盤のせいだということもできます。私も選挙特番を見ながら「福島から安倍政権に対してノーが突きつけられた」とツイッターでつぶやいたのですが、改めてこうした「地盤」や「人口差」、「投票行動」を考えると「そんな単純に安倍にNO」って感じでもねえなと反省しているところです。

3年前の第23回参院選では、自民党の森まさこさんが、民主党の金子さんに圧倒的な「ダブルスコア」の差をつけて勝利しています。しかし、さらにその6年前、2007年の第21回参院選では、金子さんが50万票、森さんが37万票で、金子さんが大差をつけて勝利してるんですね。福島県が民進有利かと言うとそうでもない。いつの時代も、地盤には左右されない「浮動票」や「時流」みたいなものがあるということです。

3年前の「民主にダブルスコア」という自民の勢いが、今回の選挙では感じられなかったのも確か。自民党の政権運営に対して批判的な方の票が伸び、投票に影響をもたらしたと考えることもできます。その意味では確かに「福島から安倍政権にNO」は間違いだとも言えません。どのレイヤーで語るかによって、今回の選挙に対する評価はもちろん変わってきますよね。

当然、福島選挙区の論点は「震災復興」だけではありません。改憲に対する考えもいろいろあるでしょうし、東北ではTPPについての議論もあります。少なくとも「安倍にYESかNOか、二択から選べ」みたいなところでは誰も決めていないということです。(その意味では「アベ政治にNO」みたいなゆるふわなスローガンばかり掲げてきた野党は猛省して欲しいと思うわけですが。)

 

—浜通りの危機感が向かう先

 

それにしても、浜通りの岩城支持、中通り&会津の増子支持と、福島県が完全に二分されてしまったことは大変ショッキングです。それほど、現在置かれている状況、選挙に対する有権者の思い、危機感の方向が、内陸と沿岸で異なるということかもしれません。

いわき市出身の岩城さんは現職の法務大臣でした。直接復興政策とは関係ない役職だといっても、閣僚として政権中枢に直接のパイプがあることは大変重要です。ですから、浜通りの有権者が、浜通り出身の閣僚を落とすまいと考えたことは当然だと思います。私のような人間のところにすら、自民党関係者から「復興のスピードを落とすわけにいかないから岩城候補に」と何度か接触があったくらいです。

2014年の第47回衆議院選挙では、いわき市を含む福島5区で、自民党の吉野正芳さんが71,000票を獲得して当選しました。一方、民主党の吉田泉さんは60,000票に留まり落選しています。今回の参院選では、岩城さんはいわき市だけで86,000票近くを獲得していますが、この「自民票」だけに特化すれば、いわき市は、むしろ以前より「安倍政権YES!」でした。もっとも、官邸が締め付けた効果かもしれませんが。

【参考】今回の参院選でのいわき市開票区の結果

増子輝彦 57,342
岩城光英 85,982

復興が進んでいない。だから自民にNOだ。ではなく、せっかく地元から大臣出してるのだから、自民に投票をして、岩城さんを通じて加速してもらったほうが良い。そういう「現実的」な判断が働いたことは否定できないでしょう。いわき市は建設業の強いところですしね。いろいろと自民党にはお世話になっている人も多かろうと思います。

でも、これにしたって、いわき市民にとっては「安倍政権にYES」ではなく、岩城さんの地元だから推したに過ぎないのかもしれない。いわき市は昔から保守が強く自民大国なわけですが、「安倍政権を支持」ではなく「昔からそうだった」で話が済みます。うーん。地方って結局そういうもの(地盤と縁故による選挙)なのかもしれません。封建時代のままというか何というか。

ただ、こうして「おらが地元の議員センセ」に託すのが最悪だというわけでもない。ほとんどの人は、個別の政策やら公約やらを吟味してる時間もないでしょう。みんなが床屋政談師でもないわけですし。今回の都知事選みたいな劇場型選挙になるより、業界団体や中間組織に判断ごと任せちゃうほうがマシだとも思います。うーん。

 

—地方の声をいかにして国政に届けるのか

 

いずれにしても、今回の選挙では、同一の県でこれほどの分断が起こりうるということ、そして「福島県」というような大きな括りをされると、個別の地域が抱える問題が見えにくくなるということが、前にも増して大きくなってきているように思います。

今回の選挙では「都市部に地盤を持つ候補の優位性」が顕著に現れました。以前のように定数が「4(改選2)」だったら、増子さんも岩城さんも揃って当選でよかったのですが、今回からは定数が「2(改選1)」に減らされました。つまり、1回の選挙で1人しか当選できない。被災地から多様な声を国政に届けるという意味では、定数削減は本当に死活問題ですよね。

細かい自治体のことは県政でやれよという声もあるでしょうし、多様性を担保するために比例があんじゃん、という話も分かるのですが、福島は東日本大震災と原発事故の被災地でもあります。町や市、県ではラチがあかない局面が多々あり、震災復興に関しては、やはり「国政」に届けるべき重要な声が多いことは理解して欲しいところです。

震災も原発事故も、東北の沿岸という、いわば「過疎地」で起きた出来事。震災復興が「都市部の論理」で進められてしまうと、ますます被災地からの声は国政に届きにくくなり、未だに避難生活を余儀なくされている人たち、すなわち「弱者」の声を消し去ってしまうことにもなりかねません。

地方はどこも公共事業で支えられており、したがって伝統的に自民党が強い。となれば、田舎は保守化し、都市部は相対的にリベラル色を帯びることになりますが、すると、地方をバラマキで支える自民党のほうがかえって「マイノリティに優しい」というようなことになってしまったりして、「地方と都市」の分断のほうが大きくなっていきます。これってどこかで聞いたことのある話ですよね。

定数削減やら選挙制度改革で、都市部偏重はこれからも進むと思いますし、相変わらず中央のメディアは「大局」で語ろうとする。「地方の声」はどこにあるのか、今後ますます分かりにくくなっていくのでしょう。しかしそんななかで声を届けていかなければならない。「支持政党による対立」なんて時代遅れになっていくのかもしれません。

震災と原発事故を経験した福島県は「課題先進地区」と言われていますが、同一県内ですら都市部と沿岸部で分断され、その分断を繋ぎ合わせるための多様な声も国の都合で削られ、そんななかでマジどうやって自治体を運営していくのよ、という点でも課題先進地区なのだと思います。

地方に生きる人間としては二重三重の意味で暗くなる選挙でしたが、とにもかくにも、増子先生には頑張って頂くほかない。幸運にも前の参院選で自民党の森まさこさんも健在です。そこでバランスが取れたことは不幸中の幸いでした。お2人には、減らされた2人分も含めて4人分の働きをして頂かねばなりません。これまで以上に、福島の多様な声を伝えていって欲しいと思います。

 


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